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地球の暴走温室・暴走冷却現象

石渡正樹(北大・地球環境) [email protected]
2004 年 3 月 5 日
表題:地球の暴走温室・暴走冷却現象


興味・関心
  • 惑星毎の気候の多様性
    • 多様性を決める要因は何か?
    • そもそも「地球らしい気候」になる原因は?


地球はどこまで地球か?




昨今の「環境問題」に対する議論
  • 地球科学者の役割=地球のお医者さん
  • 違和感!?
    • 「医者にとっての常識」を身につけましょう.
  • 良く似た集団として…


地球と地球科学者=幼稚園のお医者さんごっこ!?
  • 「幼稚園のお医者さんごっご」では…
    • 健康とは?
    • 病気とは?
    • 何をすると直るのかまたは死んでしまうのか?
  • わかっていない/ わからないんじゃないだろうか?
  • 地球科学者と地球の関係は同じようなもの…?


講義の目的 地球について基本的な理解を深めましょう.
  • 「『〜すべし, 〜すべし, 〜すべし』 で笑った人はおじさん」by 石渡


暴走温室状態とは
  • 大気が射出できるエネルギーの上限を越えてエネルギーの入射がある状態
  • 形成時の地球は暴走温室状態!?
    • 違うかもしれないけど(生駒)


地球の放射と太陽の放射
  • 上: 放射エネルギーの波長依存性
  • 下: 太陽からの入射(5780 K 相当)&地球からの輻射(255 K相当)の波長
  • 放射の量は温度で決まる.
    • 温度 T の黒体による放射は σT4


放射平衡
太陽からの入射に釣り合うようにして地球の温度が決まる




一枚ガラスモデル(大気一層モデル)での有効放射温度
  • 収支のバランスを考えることで, 有効放射温度を来める.


ガラスいっぱいモデル(大気多層モデル)の謎!?
  • 層を増やすと温度が発散する.
  • 理由は, ガラスは入射光を全て吸収する、と仮定したこと.


ガラスの"厚さ"を考慮しないといけない.
  • ガラスの性質を決めるのは水蒸気
  • 水蒸気量は温度で決まる


大気は鉛直に, 対流圏と成層圏にわけられる.


成層圏のみの大気モデル
以下の事を仮定する:
  • 水蒸気は圏界面で飽和している
  • 圏界面より上では水蒸気のモル分率は一定
  • 放射平衡が成立


成層圏大気モデルの結果
  • 温度があがると水蒸気が増える
    • ガラスが厚くなり, 放射できなくなる
  • 真面目にやるなら, 対流圏からのフラックスも考える必要あり.
  • 現在の地球、火星、金星は点線より下にいる


鉛直一次元放射対流平衡対流モデル
対流圏も考慮したモデル


鉛直一次元放射対流平衡対流モデルの結果
  • 上パネル: 表面温度の関数としての惑星放射
  • 下パネル: 温度と光学的厚さ
  • Komabayashi や Ingersol のモデルに比べて、上限値が小さい
  • 乾燥空気が多くなると最高射出量が Komabayashi の値に近づく




暴走温室状態に至る大気構造
  • 大気が十分に厚くなると、 エネルギーを射出する「深さ」が変わらなくなる →放射量は打ち止め


暴走温室状態の定義
  • ガラスいっぱいモデルはおかしくなかった(まさに暴走温室状態)
  • 水の総量には限界があると, ガラスの枚数を無限にはできない.
  • こういう場合, 乾燥大気の上に湿潤大気に乗っている状態になる.


まとめ.


参考文献
  • Abe, Y. and T. Matsui, 1988: Evolution of an impact-generated H2O-CO2 atmosphere and formation of a hot proto-ocean on Earth. J. Atmos. Sci., 45, 3081-3101.
  • Ingersoll, A. P., 1969: The runaway greenhouse: A history of water on Venus. J. Atmos. Sci., 26, 1191-1198.
  • 石渡正樹, 中島健介, 竹広真一, 林祥介, 1998: 3 次元灰色大気構造の太陽定数依存性と暴走温室状態. ながれマルチメディア, http://www.nagare.or.jp/mm/98/ishiwata/index_ja.htm
  • Kasting, J. F., 1988: Runaway and moist greenhouse atmospheres and the evolution of Earth and Venus. Icarus, 74, 472-494.
  • Komabayashi, M., 1967: Discrete equilibrium temperature of a hypothetical planet with the atmosphere and the hydrosphere of one component-two phase system under constant solar radiation. J. Meteor. Soc. Japan, 45, 137-139.
  • Matsui, T. and Y. Abe, 1986a: Evolution of an impact-induced atmosphere and magma ocean on the accreting Earth. Nature, 319, 303-305.
  • 松井孝典, 1987: ブルーバックス B-689 水惑星はなぜ生まれたか, 講談社, p201, ISBN4-06-132689-9.
  • Nakajima, S., Y.-Y. Hayashi, Y. Abe, 1992: A study on the "runaway greenhouse effect" with a one-dimensional radiative-convective equilibrium model. J. Atmos. Sci., 49, 2256-2266.
  • Simpson, G. C., 1927: Some studies in terrestrial radiation. Mem. R. Met. Soc., II, #16.
  • Gold, T., 1964: Outgassing process on the Moon and Venus. The origin and evolution of atmospheres and oceans, P. J. Brancazio and A. G. W. Cameron, Eds., Wiley and Sons, 249-256.
  • 小倉義光, 1999: 一般気象学, 第2版, 東京大学出版会, pp308, ISBN4-13-062706-6.

佐々木洋平, 千秋博紀, 小高正嗣(2004-04-02)© 森羅万象学校企画グループ